高齢者へのITサポート、家族が知っておきたいコミュニケーションのヒントと地域相談先
はじめに
ご両親の「スマホが動かない」「どうやって使うの?」といった声に、日々対応されているご家族、特に娘世代の皆様にとって、ITサポートは時に大きな負担となることがあるかと存じます。ご自身の時間も限られている中で、専門的な知識が必要に感じたり、うまく伝えられずにもどかしさを感じたりすることもあるかもしれません。
高齢の方へのITサポートにおいて、技術的な知識はもちろん大切ですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に重要になるのが「コミュニケーション」です。どのように言葉を選び、どのような態度で接するかによって、教わる側の理解度や意欲は大きく変わってきます。
この記事では、高齢のご両親へのITサポートを円滑に進めるためのコミュニケーションのヒントと、ご家族だけで抱え込まずに利用できる地域のIT支援・相談窓口についてご紹介いたします。
高齢者へのITサポートにおけるコミュニケーションの課題
なぜ、ご家族だからこそITサポートのコミュニケーションが難しく感じられることがあるのでしょうか。いくつかの理由が考えられます。
- ITへの苦手意識や不安: 高齢になるにつれて新しい技術への抵抗感が増したり、「間違えたらどうしよう」という不安が大きくなったりする場合があります。
- 説明の難しさ: 最新のIT機器やサービスは機能が多く複雑です。専門用語を使わずに、分かりやすく順序立てて説明するのが難しいと感じることがあります。
- 家族だからこその関係性: 遠慮なく質問できる反面、甘えが出たり、教える側も感情的になりやすかったりすることもあるかもしれません。また、親子ゆえに、どうしても昔からの関係性の癖が出てしまう場合もあります。
- 理解や記憶の違い: 一度説明しても、すぐに理解できなかったり、忘れてしまったりすることは自然なことです。しかし、繰り返し教えることに疲れてしまうこともあるでしょう。
スムーズなコミュニケーションのためのヒント
これらの課題を踏まえ、高齢のご両親へのITサポートをよりスムーズに進めるためのコミュニケーションのヒントをいくつかご紹介します。
1. 「教える」より「一緒にやる」姿勢で
「教えてあげる」という一方的な姿勢ではなく、「一緒に使い方を覚えてみよう」「一緒に解決してみよう」という協働の姿勢を持つことが大切です。同じ目線に立つことで、相手の緊張を和らげることができます。
2. 使う言葉を選ぶ・専門用語は避ける
ITの専門用語は、ITに慣れていない方にとっては呪文のように聞こえることがあります。「クリック」「フリック」「アプリ」「ダウンロード」「クラウド」など、日常的に使っていても通じない言葉は多々あります。
- できるだけ平易な言葉に置き換える(例:「アプリ」→「便利な道具箱に入っている小さな道具」「ダウンロード」→「インターネットから自分のスマホに持ってくる」)
- ジェスチャーや比喩を交えて説明する
- どうしても専門用語を使う場合は、その都度分かりやすく補足説明を加える
3. 小さなステップで、一つずつ確実に
一度に多くの機能を説明したり、複数の操作を覚えさせようとしたりすると、かえって混乱させてしまいます。まずは「電源の入れ方」「電話のかけ方」「家族へのメールの送り方」など、一つか二つの最小限の機能に絞って練習します。それができるようになったら、次のステップに進むようにします。
4. 褒めて、成功体験を積ませる
「できたね」「すごいね」といった肯定的な声かけは、高齢者の学習意欲を大きく高めます。たとえ小さなことでも、自分で操作できたという成功体験を積み重ねることが、自信に繋がり、次への挑戦意欲に繋がります。
5. 繰り返しに根気強く付き合う
人は新しいことを覚えるのに時間がかかるものです。特に、長年慣れ親しんだ方法から新しい方法へ移行する際には、繰り返し練習が必要です。同じことを何度聞かれても、根気強く、笑顔で対応する姿勢が大切です。「前にも教えたでしょ」といった言葉は避け、快く繰り返しの説明に応じるように心がけましょう。
6. なぜそれが必要なのかを伝える
単に操作方法を教えるだけでなく、「なぜこの設定が必要なのか(例:セキュリティのためにパスワードが必要)」「これを覚えるとどんな良いことがあるのか(例:孫の写真がいつでも見られる)」といった理由やメリットを一緒に伝えることで、納得感が増し、理解が深まりやすくなります。
7. 休憩を挟み、集中力を保つ
長時間続けて作業すると、お互いに疲れて集中力が途切れてしまいます。適度に休憩を挟んだり、その日の目標を短時間で達成できる範囲に設定したりすることで、無理なく継続できます。
家族だけで抱え込まないために~地域支援・相談窓口の活用~
コミュニケーションに配慮しながらサポートしても、やはり家族だけでの対応には限界がある場合もございます。また、ご家族自身の負担も大きくなりすぎると、共倒れになってしまう可能性も否定できません。
そのような時に頼りになるのが、地域にあるIT支援サービスや相談窓口です。これらを上手に活用することで、ご家族の負担を減らしつつ、親御さんに合った方法でITスキルを身につけてもらうことができます。
地域にあるIT支援の種類
地域には様々な形のIT支援が存在します。
- 自治体主催のIT教室: スマートフォンやタブレットの基本的な使い方を学べる講座が多く開催されています。受講料が無料か安価な場合が多いです。
- 市民活動団体・NPOによる支援: ITボランティアが高齢者の自宅を訪問して個別にサポートしたり、少人数の勉強会を開いたりしています。きめ細やかなサポートが期待できます。
- 郵便局や公民館等でのIT相談会: 定期的にIT機器に関する相談を受け付けるイベントが開催されていることがあります。
- 携帯ショップや家電量販店: 特定の製品に関する操作方法や設定について相談できますが、店舗によっては有料であったり、対応範囲が限られたりします。
- 地域包括支援センター: 高齢者の様々な相談を受け付けており、ITに関する悩みについても、適切な相談先や支援機関の情報を提供してくれることがあります。
地域支援がコミュニケーション課題解決に役立つ理由
これらの地域支援を活用することが、ご家族と親御さんの間のコミュニケーション課題解決に繋がる場合があります。
- 第三者だからこその効果: 家族以外の第三者からの説明の方が、素直に聞き入れやすい、集中しやすいということがあります。専門家やボランティアは、高齢者への教え方の経験が豊富で、分かりやすい言葉で伝えるプロです。
- 客観的なアドバイス: 家族としては見えにくい親御さんの本当の困り事や、適切な学習ペースについて、客観的な視点からアドバイスをもらえることがあります。
- 家族の休息: ITサポートを一時的に地域支援に任せることで、ご家族は物理的・精神的な負担から解放され、サポート疲れを防ぐことができます。
地域支援・相談窓口の活用方法
- まずは、お住まいの自治体のウェブサイトや広報誌、地域包括支援センターなどで、どのような高齢者向けIT支援が行われているか情報を集めましょう。
- 親御さんのITスキルや困り事のレベルに合わせて、最適な支援形態(集団教室か個別相談か、訪問サポートかなど)を選びます。
- 「家族だけでは難しく感じている」「繰り返し教えても覚えにくい点がある」など、具体的な悩みを相談窓口に伝えることで、より的確なアドバイスや支援を受けられます。
まとめ
高齢のご両親へのITサポートは、単なる機器の操作方法を教えるだけでなく、お互いを思いやるコミュニケーションが不可欠です。今回ご紹介したヒントを参考に、親御さんのペースに寄り添いながら、根気強くサポートを続けていただければ幸いです。
そして、そのサポートを家族だけで抱え込む必要はありません。地域には、高齢者のIT活用を支援するための様々なリソースがあります。これらの地域支援や相談窓口を上手に活用し、ご家族自身の負担を軽減しながら、親御さんがITを通じてより豊かな生活を送れるよう、一緒にサポートしていくことが大切です。
完璧を目指すのではなく、できることから少しずつ。ITが、ご両親とご家族の絆を深め、世界を広げるツールとなることを願っております。