親御さんと始めるオンライン診療・服薬指導 ~利用方法と困った時の地域窓口~
はじめに
近年、病院や薬局に行かなくても、自宅などからインターネットを通じて医師の診察を受けたり、薬剤師からの服薬指導を受けたりできる「オンライン診療」や「オンライン服薬指導」が広がりを見せています。特に高齢の親御さんにとって、通院や薬局への移動が大変だったり、待ち時間が負担になったりする場合、これらのサービスは大きな助けとなる可能性があります。
しかし、オンラインでの利用には、スマートフォンやパソコンといった情報機器の操作が必要です。ITに不慣れな親御さんが「どうすれば使えるの」「難しそう」と感じるのも無理はありません。この記事では、親御さんがオンライン診療や服薬指導を安心して利用できるよう、ご家族がどのようにサポートできるか、また、困った時に頼れる地域での相談窓口について解説します。
オンライン診療・オンライン服薬指導とは
オンライン診療は、スマートフォン、タブレット、パソコンなどを使用して、自宅などからインターネット経由で医師の診察を受ける仕組みです。ビデオ通話が用いられることが一般的です。
オンライン服薬指導は、医師からの処方箋に基づき、薬剤師がインターネット経由で薬の説明などを行う仕組みです。こちらもビデオ通話で行われることが主流です。指導後、薬は自宅などに配送されます。
これらのサービスを利用するメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 通院・来局の負担軽減: 自宅で受けられるため、移動の手間や身体的な負担が少なくなります。
- 待ち時間の短縮: 予約時間に開始されるため、病院や薬局での長い待ち時間を避けられます。
- 感染リスクの低減: 医療機関や薬局に行く回数が減るため、感染症への曝露リスクを抑えられます。
- 家族の付き添い負担軽減: 同行が難しい場合でも、親御さんが自宅でサービスを受けやすくなります。
一方で、すべての病気や症状に対応できるわけではない点、情報機器やインターネット環境が必要な点、対面診療が必要になる場合がある点なども考慮が必要です。
利用開始までの準備と流れ
親御さんがオンライン診療・服薬指導を始めるためには、いくつかの準備と手順があります。
- 必要な機器と環境:
- インターネットに接続できるスマートフォン、タブレット、またはカメラとマイク付きのパソコンが必要です。親御さんが普段お使いの機器が利用できるか確認しましょう。
- 自宅にWi-Fiなどのインターネット環境があると、通信料を気にせず利用できます。
- 対応している医療機関・薬局を探す:
- 全ての医療機関や薬局がオンライン診療・服薬指導に対応しているわけではありません。かかりつけの病院やかかりつけ薬局が対応しているか確認するか、対応可能な施設をインターネットなどで検索する必要があります。
- 予約:
- 多くの場合は、病院や薬局のウェブサイトや専用アプリから予約を行います。電話で予約を受け付けている場合もあります。
- 診察・服薬指導:
- 予約した時間になったら、指定された方法(アプリを開く、送られてきたURLをクリックするなど)で医療機関や薬局と接続します。ビデオ通話で医師や薬剤師と会話します。
- 支払い:
- クレジットカードによるオンライン決済や、後日振込など、医療機関や薬局によって異なります。
- 薬の受け取り:
- オンライン服薬指導の場合、薬は自宅などに配送されます。
親御さんが利用する際の具体的なサポート方法
親御さんがスムーズにオンライン診療・服薬指導を利用できるよう、ご家族ができるサポートは多岐にわたります。
- 機器の準備と確認: 親御さんがお使いの機器がオンライン診療に対応しているか、カメラやマイクが使えるかなどを事前に確認してあげましょう。必要であれば、新しい機器の選定や購入をサポートします。
- インターネット環境の整備: 安定した通信のため、自宅のインターネット環境を確認・整備します。Wi-Fiの設定なども手伝いましょう。
- アプリのインストールと初期設定: オンライン診療・服薬指導は専用のアプリを使うことが多いです。アプリストアからのダウンロード、インストール、アカウント作成、必要情報の登録(保険証情報など)を一緒に行います。パスワードなどは忘れないように記録しておきましょう。
- 操作の練習: いきなり本番ではなく、事前にビデオ通話アプリ(LINEやZoomなど)を使って家族間で通話の練習をしてみるのが効果的です。画面の見方、マイクのオンオフ、スピーカーの音量調整など、基本的な操作を練習しておくと安心です。
- 予約の手伝い: ウェブサイトやアプリからの予約操作が難しい場合、一緒に予約手続きを行います。
- 診察・指導への同席: 親御さんの同意を得て、最初の数回は診察や服薬指導に同席するのも良いでしょう。操作を手伝ったり、医師や薬剤師の話を一緒に聞いたりすることで、親御さんの不安を軽減できます。ただし、プライバシーに配慮し、どこまで立ち会うかは親御さんと相談して決めましょう。
- 困った時の連絡先を控えておく: 利用する医療機関や薬局の問い合わせ先、アプリ提供会社のサポート連絡先などを分かりやすい場所に控えておきましょう。
つまずきやすいポイントと教え方のヒント
高齢者がIT機器の操作でつまずきやすいポイントを踏まえ、教える際の工夫をご紹介します。
- 抽象的な指示は避ける: 「このボタンを押して」「この画面を開いて」など、具体的でシンプルな言葉で指示します。「さっきやったみたいに」「いつものアレ」といったあいまいな言い方は避けましょう。
- 一度に多くの情報を伝えない: 新しいことを覚えるには時間がかかります。一つの操作や手順ずつ、ゆっくりと進めましょう。
- 繰り返し練習する: 一度で覚えられなくても当然です。同じ操作を何度か一緒に練習することが大切です。
- 休憩を挟む: 長時間続けて教えるとお互いに疲れてしまいます。適度に休憩を挟みながら行いましょう。
- 小さな成功体験を積み重ねる: 「できたね!すごい!」と声をかけ、成功体験を積み重ねることで、親御さんの自信につながります。
- 専門用語を使わない、使った場合は説明する: 「アプリ」「ダウンロード」「インストール」「Wi-Fi」「ログイン」など、普段私たちが使う言葉でも、高齢者にとっては聞き慣れない専門用語です。使う場合は「アプリというのは、スマホで色々なことができる道具箱みたいなものです」「ダウンロードは、インターネットからスマホの中にしまうことです」のように、平易な言葉で説明を加えましょう。
- 操作マニュアルを一緒に作る: 予約方法、アプリの開き方、ビデオ通話の始め方など、手順を書き出した簡単なマニュアルを一緒に作成すると、後で親御さん自身が見返せて役立ちます。
困った時の相談窓口・地域でのサポート
ご家族がサポートしても解決できない問題に直面した場合や、第三者による専門的なサポートが必要な場合もあります。
- 医療機関や薬局のサポート: 利用している医療機関や薬局が、オンライン診療・服薬指導に関する問い合わせ窓口を設けている場合があります。アプリの操作方法や接続方法など、まずは契約している施設に確認してみましょう。また、利用しているアプリ提供会社が専用のサポート窓口を設けていることもあります。
- 地域のIT相談窓口・スマホ教室: お住まいの地域によっては、高齢者向けのIT相談窓口やスマホ教室が開催されています。これらの多くは、特定のアプリの使い方など個別具体的な内容には対応していない場合もありますが、「ビデオ通話アプリの基本的な使い方」など、オンライン診療・服薬指導の基礎となる操作を学ぶことができます。一度、お住まいの市区町村のウェブサイトや広報誌で情報を探してみる価値はあります。地域の社会福祉協議会やNPOなどが開催している場合もあります。
- 地域のITボランティアや支援団体: 地域によっては、ITに詳しいボランティアが高齢者宅を訪問して個別の相談に乗ったり、操作を支援したりする活動を行っている団体があります。これも市区町村のウェブサイトや地域の包括支援センターなどで情報が得られる可能性があります。
- 家電量販店や携帯電話会社のサポート: 一部の家電量販店や携帯電話ショップでは、有料でスマートフォンの基本操作やアプリの使い方に関するサポートサービスを提供しています。お近くの店舗に問い合わせてみるのも一つの方法です。
まとめ
オンライン診療・服薬指導は、高齢の親御さんの医療アクセスをより便利にする可能性を秘めたサービスです。IT操作に不安がある場合でも、ご家族による丁寧なサポートと、必要に応じた地域の支援をうまく組み合わせることで、利用へのハードルを下げることができます。
まずは親御さんとサービスのメリットや利用方法について話し合い、興味があれば、小さなステップから始めてみましょう。もし操作方法などで困ったことがあれば、この記事でご紹介したような様々な相談先があることを思い出してください。
この情報が、親御さんのデジタルヘルスケアの第一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。