親御さんにITを教える時の心得 ~つまずきやすいポイントと伝え方のコツ~
はじめに
近年、スマートフォンやインターネットは私たちの生活に欠かせないものとなりました。行政手続きのオンライン化やキャッシュレス決済の普及など、デジタル化は今後さらに進んでいくと予想されます。
一方で、デジタル機器の操作に不慣れな高齢のご両親が、これらの変化についていくことに難しさを感じている場面も少なくないでしょう。私たちご家族がサポートしようとしても、「どう伝えれば理解してもらえるのだろう」「何度教えても同じところでつまずいてしまう」といった悩みを抱えることはよくあります。
この記事では、高齢のご両親にIT機器やサービスの使い方を教える際に知っておきたい心構えや、具体的な伝え方のコツ、そしてよくある「つまずきやすいポイント」への対処法についてご紹介します。ご家族でのITサポートが、少しでもスムーズに進むためのヒントになれば幸いです。
なぜ高齢者はIT操作でつまずきやすいのか
高齢のご両親がIT操作に苦労される背景には、いくつかの要因が考えられます。
- これまでの経験との違い: 昔ながらの電話や家電製品とは根本的に操作方法が異なります。触ると動く、画面をなぞるなどの直感的な操作が、逆に理解を妨げることがあります。
- 新しいことを覚える負担: 年齢と共に新しい情報や操作手順を記憶することに時間がかかったり、定着しにくくなったりすることがあります。
- 専門用語への抵抗: アプリ、Wi-Fi、クラウド、通知などのカタカナ用語や専門用語が、意味不明で不安を感じさせる要因となります。
- 失敗への恐れ: 間違った操作をして壊してしまうのではないか、大切な情報を消してしまうのではないかといった不安から、触ることに抵抗を感じることがあります。
- 身体的な変化: 視力の低下で画面が見えにくくなったり、指先の感覚や細かい操作が難しくなったりすることもあります。
これらの要因を理解した上で、教える側である私たちがどのようにアプローチすれば良いかを考えていくことが大切です。
教える前に確認したい「心得」
ご両親にITを教える際には、技術的な知識以前に、いくつかの心構えが重要になります。
- 焦らない、根気強く: 一度で完璧に理解してもらうことは難しいと認識しましょう。繰り返しになることを恐れず、根気強く付き合う姿勢が大切です。
- 寄り添う気持ちを持つ: 「なぜこれが分からないの?」とイライラするのではなく、「どこで困っているのかな」と相手の視点に立って考えてみましょう。不安な気持ちに寄り添うことが、信頼関係を築き、学習意欲を引き出す鍵となります。
- 完璧を求めない: 最初から全ての機能を使いこなす必要はありません。まずはご本人が「何ができるようになりたいか」という目標を明確にし、それに必要な最低限の操作から始めましょう。
- 小さな成功体験を積む: 「できた」という喜びは次への意欲につながります。「〇〇のボタンを押せましたね」「写真が見られましたね、素晴らしいです」のように、小さなことでも具体的に褒めることで、自信を持ってもらえます。
- 教える側も完璧でなくて良い: 全ての疑問にその場で答えられなくても問題ありません。「一緒に調べてみようか」「これはすぐに調べられるから待っててね」といった姿勢でも大丈夫です。
具体的な「伝え方のコツ」
心構えができたら、次は具体的な伝え方について考えてみましょう。
- 操作は「ひとつずつ」丁寧に: 複数の手順を一度に説明せず、画面を指差しながら「まず、ここを一度押します」「次に、ここに文字を入れます」のように、ひとつずつの操作をゆっくり、はっきりと伝えます。
- 専門用語は使わない、簡単な言葉で: 「ここをタップしてください」ではなく「ここを指でトンと触ってください」。「Wi-Fiにつなぐ」ではなく「インターネットを家で使う準備をします」のように、日常的な言葉に置き換えて説明します。どうしても専門用語を使う場合は、「これは〇〇という意味です」と必ず補足説明を加えましょう。
- 「見る」だけでなく「一緒に操作する」: 口頭の説明だけでは伝わりにくいため、必ずご本人の機器を使い、隣で一緒に操作しながら教えましょう。ご本人の指を取って一緒に動かしたり、まずご自身がやって見せてから、次にご本人にやってもらったりする方法が有効です。
- 「マニュアル」や「メモ」を作成する: よく使う機能や手順(例: 電話のかけ方、写真の見方、インターネットの開き方)について、操作画面の写真を貼り付けた簡単なマニュアルや、大きな文字でのメモを作成して渡すと、後から一人で見返せて安心できます。
- 休憩を挟む: 長時間の学習は集中力が続かず、疲れてしまいます。こまめに休憩を挟み、気分転換をしながら進めましょう。
つまずきやすい「ポイント」と対処法
ご両親がIT操作でよくつまずくポイントをいくつかご紹介し、それぞれの対処法を考えます。
- タップと長押し、スワイプ、ピンチイン/アウト: 画面を軽く触る「タップ」なのか、長く押し続ける「長押し」なのか、画面をなぞって移動させる「スワイプ」なのか、二本指で広げたり縮めたりする操作なのか、慣れるまで混乱しやすい点です。「これはトンと触るだけ」「これはギュッと押し続ける」「これはスーッと動かす」のように、擬音語を交えながら、実際に一緒に指を動かして体感してもらうのが効果的です。
- 画面のどこを触るか分からない: 広告バナーや関係ない画像など、どこを触れば良いか判断に迷うことがあります。「触るのは、文字やマークが書いてあるところだけ」「この青いボタンを押します」のように、操作する対象を具体的に示します。
- 文字入力が難しい: キーボードが小さくて押し間違えたり、フリック入力や音声入力に慣れなかったりします。文字入力を最小限にする工夫(例: 連絡先を登録しておく、よく行くサイトはブックマークする)や、音声入力機能を活用する練習などが考えられます。
- 設定画面や通知: 複雑な設定画面を開いてしまったり、意味不明な通知が表示されたりして、困惑することがあります。「これは難しい画面だから、今は触らなくて大丈夫」「これは使わないお知らせだから消しましょう」のように、ご本人にとって不要なものは触らない、気にしないという線引きを教えることも大切です。
どうしても難しいと感じたら
ご家族でのサポートも大切ですが、時には限界を感じることもあるかもしれません。あるいは、ご家族以外の人から教わる方が、遠慮なく質問できてスムーズに理解できる場合もあります。
そのような時は、地域で利用できるIT支援サービスやスマホ教室、公的な相談窓口などを活用することも有効な選択肢です。専門のスタッフやボランティアが、それぞれのペースに合わせて丁寧に教えてくれます。
当サイトでも、お住まいの地域で利用できるIT支援やスマホ教室の情報、困った時の相談窓口についてご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
おわりに
高齢のご両親へのITサポートは、時に根気と工夫が必要になります。すぐに結果が出なくても焦らず、ご両親のペースに寄り添いながら、小さな「できた」を積み重ねていくことが大切です。
ご家族だけで抱え込まず、地域の支援サービスなども上手に活用しながら、ご両親が少しでも安心してデジタルツールを使えるようになるお手伝いができれば、それがご家族自身の負担軽減にもつながるはずです。この記事が、皆さまのITサポートの一助となれば幸いです。